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10年度開催結果


1998年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙フォーラム理事長賞

「贈り物」
千葉市立末広中学校3年  武藤 浩美
 
「二十世紀、人類は宇宙への一歩を踏みだした。そして向上心の強い彼らは、研究と実験を繰り返し宇宙における行動範囲を少しずつ、確実に広げていったわけだ。」

 地球人の血は全く持たない教師は、どこか投げやりな表情で言った。ユイは自分のディスプレイにうつる年表を見ながら、一言も聞き逃すまいと話を聞く。今では数少ない純地球人のユイにとって、地球史は一番興味深い科目だ。と、授業終了を告げるチャイムが響いた。

「あー、それではきょうの授業は終わりにする。次回までにフロッピーIのB7に目を通しておけ。」

 宿題を残して教師は退室した。一気に教室内が騒がしくなる。ヘッドホンをはずしたユイのところに数人が集まってくる。

「ねぇユイ、今日の授業の記録、コピーさせてくれる?あの先生、地球史は大ざっぱで読むの早いから。」

「なんか地球人嫌ってるよね。」

 ユイほど濃くはないが、地球人の血をひく友人たちは口々に言う。帰り支度をしながらユイは苦笑している。

「はい、ディスクは貸せないからノートでがまんしてね。」

 ユイは授業をノートに書いているが、この時代にはノートも鉛筆も手にいれにくいので、ノートをとるのは変わり者である。

「ありがと、明日返すね。ところで今日は遊べるの?」

「ごめん、今日はおばあちゃんの家に行くから。じゃあね。」

 言うなりユイは教室から駆け出た。学校区から居住区へ行き、さらに郊外へ向かう。エアラインから外れた人工林の入口に時代遅れの白い小さな家がある。その家のポーチでお茶を飲んでいる老婦人を、ユイは呼んだ。

「おばあちゃん!」

 老婦人は顔を上げ、ほほえむ。

「いらっしゃい、ユイ。今日は早いのね。」

「五クラスしかなかったから。」

 うれしそうに笑ってユイはカバンをおろす。席に着くと、祖母は紅茶で満たしたカップをさしだす。受けとり一口飲んだユイに祖母がたずねる。

「ユイ、明日はあなたの誕生日だったわね?」

「うん、十六歳になるの。」

 祖母はしばし考え、やがて席をたつ。少し待ってね、と言って家の中に入っていく。しばらくして戻ってきた彼女の手には長方形の箱があった。孫の前にそれを置く。

「これ何?」

「一日早いけれど誕生日プレゼントよ。開けてみて。」

 言われるままにかけられたリボンをはずし、ふたをとる。中には蒼い透明な円盤。

「水石というの。この周辺の星でしか採れない。」

「知ってる。水石を採るために、この星の人達を立ち退かせ、無理な開発をしたんでしょう?」

 ユイは祖母の哀しげな顔に、この時気づいた。

「おばあちゃん?」

「あのね、ユイ。この石にまつわる昔話を聴いてくれるかしら?つまらない話だけれど。」

 ユイの沈黙を肯定と受け、一つの思い出を語り始めた。



 四十年と少し前。岩山と砂漠におおわれたこの星に地球人が降りたった。星には人が住んでいた。彼らはここでしか採れない水石を星間行商人に売って暮らしていた。けれど彼らは水石を独占しようとする、欲深い地球の企業によって土地を追われた。けれど彼らを助けようとする地球人もいた。ユイの祖母はその一人だった。水や食物、衣服やお金を可能な範囲で与え、企業に対抗した。そんなある日。まだ日が昇らぬ時間に、一人の少女が訪ねてきた。彼女が援助している家族の一人だ。少女は教わった地球語でたどたどしく言った。
「あなた、家族助けた。ありがとう。これ、お礼。父から。」 さしだされたのは水石を加工したものだった。水石を渡すと少女は走り去った。その日の昼に、少女の家族が星を出たことを知った。



 祖母の話を聞き終え、ユイは家路をたどっていた。ポケットから水石をだし、夕日にかざした。

「この石がきれいなのは、人の心がこもってるからなんだね。
 私も優しい心を失わずに生きなくちゃ。」

 異星人の家族から祖母へ。祖母から私へ。そして私から子供達へ。水石と共に優しい心を伝えよう。この素晴らしい贈り物を。


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