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9年度開催結果


1997年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部省宇宙科学研究所所長賞

「宇宙人との交信」
八戸市立第三中学校・1年  井上 誠之
 
 CQ、CQ、CQ こちらはJL7XWA、CQ、CQ、CQ……。僕は、アンテナを月に向けて月面反射交信を試みた。夏休みにはいってから一週間、毎日試みているが、今日も何の応答もない。スピーカーからはザーッという雑音だけが流れていた。
 今日も、だめだった。
「これで、交信をおわります。」
 僕は、マイクを置き無線機のスイッチを切ろうとした、そのとき、
「だめ、切らないで。」
 ふしぎな声がした。スピーカーから出ている音は、ザザーという雑音だけ。まわりをみわたしたが、部屋の中には誰もいない。気のせいかと思ったが、
「おねがい、切らないで。」
 確かに聞こえる。聞こえるというより雑音が僕の心に話しかけている。
「きみは、だれ。」
 思わず僕はマイクに向かって話した。
「ありがとう。僕を理解してくれて。」
 ふしぎな気持ちだった。耳からは、雑音しか聞こえてこないのに、心に言葉が浮かんでくるのだ。ふしぎな雑音は続いた。
「僕の名はホープ。空間通信の研究者。5次元空間通信の研究をしているんだ。時間と距離によらない通信を開発しているんだ。たぶんきみの宇宙と僕の宇宙は、1〇〇億光年以上離れているだろう、けどこうして通信ができるんだ。きみの電波をキャッチしたとき僕はすごくうれしくなったんだ。」
「え、でもどうして耳では聞こえないのに、話ができるの。」
「それは、僕が使っているのは、シンボル翻訳機。お互いに話していることがそれに近いシンボルとして心で理解されるんだよ。」
 5次元空間通信に、シンボル翻訳機?僕の頭の中は完全に混乱していた。ふしぎな雑音は僕の混乱をよそになおも語りかけてくる。
「通信が確保できるのは、ブラックホールとホワイトホールがつながって空間が曲がっている短い時間だけ。きみのことが知りたいし僕のことを理解してもらいたい。時間があまりないんだ。」
 ボーとしている僕の頭に関係なくふしぎな雑音は続く。
「空間の状態が不安定になってきた。…きみの電波をたよりに調整してみるよ。……まずきみの世界のことを紹介して……」
 え、僕の紹介?僕はとまどったが、いつもの交信と同じようにしゃべり始めた。突然のことでそれしかできなかったのだ。
「僕の名前は、せいじ。僕が住んでいるのは青森県、八戸市……」といいかけて言葉が止まった。宇宙人にはもっと広くいわなくては、
「僕の星は、地球。水におおわれた、青く美しい星。様々な種類の生物が住んでいて、僕たちは陸に住んでいる。僕の家族は、父と母に妹、そして僕の四人家族。僕の趣味は、無線。僕の将来の夢は、大宇宙を旅して、新しい友人をさがすこと。」
 思い浮かぶことを次々とマイクに向かって話した。
「ホープ聞こえるかい。」
「聞こえているよ、セイジ。あとわずかな時間だけど、交信は、安定しているよ。」
 ホープの言葉は、はっきりと心に響いていたが、なぜか悲しそうだった。
「どうしたの、ホープ。」僕はたずねた。
「なんでもないよ。」ホープは、そういうと自分の世界のことを語った。
「シンボル翻訳機は、自由に星と星の間を行き来することができる僕の世界にとって、文化や生活が違っていても、異なる星の者同士がお互いに会話のできる画期的な発明だった。ところが、この装置が普及すると、困った問題がおきた。人々はお互いの心を隠すことができなくなった。すると自分のみにくい心を知られることをおそれ、外出しなくなった。人口は減り、いくつもの文明が滅んだ。まもなく、僕の世界は終りだよ。どうだい、セイジ、おどろいたかい。」
 ホープの言葉に僕は必死で答えた。
「でもホープ。きみと僕が交信しているということは、きみはお互いに信じたいという気持ちがあるからじゃないか。きみのまわりにもきっとそういう人がいるよ。」
「ありがとう、セイジ。きみの言葉は、真実だ。シンボル翻訳機の前では、どんなウソもつけないんだ。言葉を通して心がシンボルとなって相手の心に届くからね……」
 ホープの言葉がだんだん遠ざかっていった。いつしか、無線機の雑音はまたいつもの音に変わっていた。
 僕の無線機の中に突然飛びこんできた宇宙人からのメッセージ。それは、宇宙人からの友達を求めての交信だったのか、それとも、もうすぐ滅んでしまうかもしれないというSOSだったのか。
 たまたま使った「信じ合う」という言葉、もしも僕たちの世界にシンボル翻訳機があらわれたらどうなるだろう。僕の心の中には、交信ができたことへの満足感よりも、人類が本当に信じ合って生きていけるのかという疑問が残った。


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