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8年度開催結果


1996年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙フォーラム理事長賞

「宇宙での生活」
八戸市立下長中学校3年  河原木 佳子
 
 夏休みに、僕は生まれて初めての宇宙旅行を経験した。宇宙旅行といっても、一泊二日の短い旅行だ。
 宇宙船の窓からその星が見えた時、僕は驚きのあまり言葉を失った。星全体が水晶のようなカバーで覆われていたからだ。けれど、何よりも驚いたのはまるで地球に帰ってきたかのような印象を受けたことだ。青い海に白い雲がうず巻き、その間から鮮やかな緑がのぞいている。この星の名は「アヤ」。
(なんて美しい星だろう。)
僕は、一目でこの星が気に入ってしまった。
 透明な水晶のドアを通り抜け、僕はこの星に降りたった。そして、ここに住む祖父を訪ねた。祖父は、この星を開拓して移り住んだ最初の人類の一人で、この星について何でも知っている。僕をここによんでくれたのも祖父だった。
 次の日、祖父は海へ連れていってくれた。もちろん人工的につくられた海だけれど地球の海とほとんど変わらない。小さなクルーザーの上から見える水面は、これもまた人工的につくられた太陽の光を受けて、はねるように輝いている。しばらく進むと、船の横でたくさんの水しぶきがあがった。
「イルカだ。」
僕は船べりへ走り寄った。十頭ぐらいだろうか。なめらかな銀色の体で飛ぶように泳いでいる。イルカのいる海なんて、日本じゃ見たことがない。
 祖父の許可がでると、僕はTシャツを脱ぎ捨てて早速海へとびこんだ。イルカたちはちっとも僕を恐がらず、珍しいやつだとばかりに僕を囲んで、一緒に泳ぎだした。瞳と瞳がふれ合い、とても不思議な魅力に包まれた。
 ところが、異変に気付いたのはそれからまもなくだった。プシューという、うきわに穴があいた時のような音がして、僕の前を泳いでいた一頭がブクブクとした泡になり、あっという間に消えてしまったのだ。驚いた僕は、すぐに船へ戻り、祖父に話した。祖父は小さくため息をついて、僕にこう尋ねた。
「この星は美しいか?」
突然の質問にとまどっていると、祖父は静かに、真実を語り始めた。
 開拓時代まっさいちゅうのこの星には、地球から多くの人々がやってきた。水や空気など生きるために必要な条件をある程度満たしている、地球以外の最初の星だったこの星は、全世界の注目を集めた。人々はこの星を手に入れるために、互いに憎しみ合い、いがみ合い、そして殺し合った。破壊、破壊、そして破壊。殺戮、殺戮のくり返し。そして最後に訪れるのは一切の死。人々がやっと気付き始めたとき、この星は血と炎と沈黙に満たされており、もはや何も産みださなくなっていた。「アヤ」という名前には、「廃墟の山」という意味があるのだと祖父は言った。
「でも、僕はこの星が、緑が豊かなのを見ました。」
僕がそう言うと、祖父は、
「何かの動物が、この星の植物を食べているところを見たことがあるか。」
と聞いた。そういえば、一度もない。
「この星の植物は、決して食べることはできない。ここで死んだ、数えきれないほどの人間の血が、この土地にはしみこんでいる。そんな土地から生えでた植物が『生』を与えることなどできないのだ。」
「じゃあ、動物はどうやって生きているの?」
「この星には、動物はいない。さっき一緒に泳いだイルカも、この空を飛んでいる鳥たちも、すべて我々が造りだした人形なのだ。」
 僕には信じられなかった。この星の東側にある大きな工場で、すべての「動物」が造られているのだという。開拓者たちは、この星を第二の地球とするため、超科学の力で「動物」を造っているのだ、と。
「けれど、生命を造ることなど不可能だった。生命というものは宇宙の様々なリズムとの完璧なつり合いをとった呼吸作用によって維持されている。我々の造る生命はそのつながりがないため、酸素の摂取量を誤り、パンク状態となって蒸発してしまうのだ。」
イルカが泡になったのは、そのためだったのだ。僕はずっと黙っていた。
 そして二時間後、僕はアヤから地球行きの宇宙船に乗りこんだ。
「それじゃあ、体に気をつけて。」
宇宙船は離陸した。アヤがどんどん遠くなっていくのを見ながら、僕は一人考えていた。この星は、本当に美しいだろうか、と。


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